舟橋純の控え帖

まずノートだ、そこに見たもの、思ったことのすべてを書き入れる。そののちに分類して秩序づけ書き写せばいい。思考の簿記であって、そうすれば物事の関連性と、そこから生じる解明とが、きちんとした表現を見るだろう。(『リヒテンベルク先生の控え帖』より)。そういうブログです。

アフォリズム集(No.31~No.40)

 

 なにか一つでも、お気に入りを見つけてもらえれば幸いです。

junjacques.hateblo.jp

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31. 祈りの行方。

 神を信じることの白々しさが人々のあいだに行き渡った世界で、人は何に対して祈ればよいのだろう。苦境にある人は、神のいなくなったこの世界で、何に対して祈ればよいのだろう。神がいないこの世界で、それでも祈らずにいられない人々に、私はかける言葉がわからないのだ。

 なにかに祈りを捧げる人に対して、私がことばをかける必要などあるのだろうか?ないんじゃないか? 祈りを捧げる誰かを私が心配する必要はきっとない。なにかに祈らずにいられない人とは、まさにわたし自身のことではないか? とすれば、問いはこうだ。わたしはなにに対して祈ればよいのか?

 私はかつて、御朱印集めをしていた頃、二礼二拍手一拝を形式的にくりかえしながら神社を巡っていたけれど、そのときその神社に奉られている神さまに会えたとは、ついぞ思ったことはない。お寺に行ったときも、仏像を拝みながら手を合わせても、私の拝む先に仏はいなかった。

 

32. 私の興味。

 私は哲学において神を追い求めた人に惹かれる。自分自身、神を認識したいという気持ちがあるわけではない。神を認識したいという気持ちが、ある人のなかにどうして生まれるのかということに興味があるのだ。どうして人は神を追い求めるようになるのだろう? 何がその人にそうさせるのだろう? 

 

33. 趣味欄。

 もしある人のプロフィールの趣味欄に「読書/カフェめぐり/ジャズ」とあったら、それらは三つそれぞれ独立した趣味ではないのだ。カフェに行ってジャズを聴きながら読書するのが好き、ということ。趣味欄には、その人の好きな風景がある。私たちは風景を趣味にする。

 

34. 子猫は見る。

 子猫はこちらをじっと見る。私たちが子猫に対してなにかをしようとしているわけでもないのに。まるで私たちの行動が、すべて自分に関係あるかのように。わからないのだ。何が自分に関係があり危ないことなのか、何がそうでないのか。

 子猫と同じことが、私たちにも言える。見知らぬ世界に踏み入る私たちは子猫だ。そしてその世界に慣れることは、すなわち自分の周りに無関係を見出すことだ。

 

35. 働きながらでも。

 働きながらでも本を読むことはできる。ただし、本を読むことを、すなわち小説を読むこと、と考えているならそのかぎりではない。人が虚構に費やせる時間は限られている。

 

36. 態度を見ている。

 ことばをつくさなければ人にメッセージは伝わらない、というのは正しくない。人はあなたがメッセージを伝えるときの態度を見ている。

 

37. 文脈。

 文脈とは、態度の流れである。

 

38. どちらか?

 あなたは本が好きなのか、それとも、本を買ってストレスを解消することが好きなのか?

 

39. ギリシャはヨーロッパではない。

 もともとギリシャはヨーロッパではない。しかしギリシャの文化的な遺産をもっともよく継承したのはヨーロッパの人々である。

 日本人は中国人ではないが、中国文化をよく継承しているのに似ている。

 

40. 宝石探し。

 名前も知らない誰かの書いた本に、共感できる一節を探しに行くのは、砂浜に宝石を探しに行くようなものだ。ダウジングマシンがあれば都合よくあればいいが、現実にはそうもいかない。だから人は広大な本の砂浜で、さまよってしまう。
 
 だから私は、ある作家の人となりがわかる著作を探す。自伝、エッセイなどだ。そうすれば、その作家はまったく見知らぬ人ではなくなる。一億二千万人のうちの一人から、電車でたまたま隣に乗り合わせた人、くらいの距離感にはなる。そんな気がするのだ。

 作家と作品は、切り離して考えてもいいのだろうか? 私は、作家と作品を結び付けて考える。ごくごく素朴な立場だ。作者と作品は別物で、一度発表された作品は作者の手から離れると考える立場からは、私の立場は素朴に過ぎるだろう。
 
 ただ、私は作者と作品を切り離して考えることができない。もしそうしてしまうと、私の目の前に現れるのは、作者から切り離された、たくさんのモノ、モノ、モノの群れだ。山奥に打ち捨てられた廃屋、道路脇に転がる靴、火がついたままポイ捨てされたタバコ。それらに私はどう近づけばよいというのか………?